CUATRO GATOS

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cuatro gatos公演 [or con-tainer/taint] の中止に関して


















cuatro gatos公演を中止に追い込んだ『美術の地上戦 over tone Ⅱ』に抗議する


 私たち、演劇グループ・クアトロガトスは去る12月11日(土)『美術の地上戦 over tone Ⅱ』の一環として、神奈川県民ホールギャラリーB1にて公演を行いました。

 ところが、公演後、私たちの上演が美術展示の「邪魔」をしているとの理由から、翌日12日の上演に関しては場所を変更せよと命令されました。しかし、代替として提示された場所で上演を行うには、舞台構成、装置、機材を大幅に組み替えねばならず、上演は現実的に不可能と判断せざるを得ませんでした。そして、12日(日)の公演は中止に追い込まれました。

 私たちの上演が他の作品の「邪魔」をしていたことは素直に認めます。ひとつの空間で美術と演劇をやるのですから、美術だけ観ようとしても、それはそもそも不可能なことだからです。そうした意味で私たちの上演は美術の「邪魔」をしたのでしょう。だが、美術だけを観てほしいのであれば、そもそも同時に演劇など企画しなければよかったはずです。

 『美術の地上戦 over tone Ⅱ』のチラシを見ると、「異質なものとの出会い」が展覧会のテーマであったことが読み取れます。この「異質なものとの出会い」とは、いったい何を意味していたのでしょうか。あるいは、「地上戦」とは、異質なものを一掃・抹殺することを意図してつけられたタイトルだったのでしょうか。私たちは美術作品の自足した自己同一性の空間に少し足を踏み入れただけで、「異質なもの」として、「差別・排除」されてしまいました。

 表現とは、表現されるものが他でもあり得たかもしれないという可能性を確実に奪うものであり、他者排除の暴力を常に内側に抱え込んでいるものです。こうした暴力に私たちも無関係であるはずがなく、だからこそ無自覚ではありたくないというのが、クアトロガトスの活動の根本にはあり、今回も、表現のもつ暴力性、それによって引き起こされる差別・排除をテーマとしていました。

 より具体的には、この数年来、ともに表現を模索し続けてきた胎児性水俣病患者との共同作業によってつくり上げたのが、今回の上演でした。水俣病患者は半世紀以上を経て、いまだに差別・排除に晒されている人びとです。水俣病であることが知られてしまえば、地域社会から差別・排除される。補償金をもらえば、ニセ患者、奇病成金などと酷い陰口を叩かれる。しかし、名乗りを上げなければ、補償もないままに、一生隠れて暮らすか、遠い別の場所で暮らすしかない。そうした生を生きてきた患者のひとりが今回、映像を通してであれ、自らの姿を人前に晒し、自分たちの実情を訴えようとしたのです。

 しかし、訴えは美術展主催者や出展作家にはまったく届くことなく、「邪魔」だからと言って、一方的に差別・排除されてしまった。患者の、生きている場所の根拠脆弱さを象徴していた、舞台装置としての、安っぽい段ボールハウスはあっと言う間に撤去されてしまった。健常者の理屈によって、障がい者の表現が圧殺されてしまった。これは、社会の多数者が平穏無事に生きていくうえで「邪魔」となる、異質な少数者を差別・排除する行動そのものだったのではないでしょうか。

 少子高齢化が進み、疾病構造も変化し、病気や障がいを抱えて(一病・二病息災で)生きていく人が増えるなか、バリアフリー、ノーマライゼーションの実現が喫緊の課題となっています。また、グローバル化が進むなかで、多文化共生社会の実現も喫緊の課題です。こうした社会情況にあって、私たちは自分たちの価値観を、自己中心主義的・自文化中心主義的に一方的に押しつけるだけでなく、「異質」な人の「異質」な価値観を受け止め、そのことによって、私たち自身も既成の自己同一性に安住することなく、変化することが求められているのではないでしょうか。

 こうした観点からも、今回の美術展主催者の対応には、思慮、思想が欠けていたと思わざるを得ません。何よりも自らチラシに掲げた「異質なものとの出会い」という趣旨、テーマを裏切っていたと言わざるを得ません。


 ひとつの上演を潰してまで、主催者が守りたいもの。それはいったい何だったのでしょうか。他人の表現の権利を圧殺してまで貫きたい自己表現とは何だったのでしょうか。私たちにはまったく想像ができません。

 私たちクアトロガトスは、この問題を看過しません。美術展主催者に納得のいく、責任ある「説明」と「謝罪」と「補償」を求めます。


2010年12月15日 クアトロガトス(文責:清水唯史)